肩の一般論
肩は手を上にあげたり、物を持つときに負担がかかる関節です。洗濯物を干すときや服を着るときに痛みを覚えることが多く、痛みにより日常生活に支障が出ることも多くなっています。また、スポーツで痛めることも多くなっており、正確な診断と正しい治療が必要になってきます。
肩の構造
肩は肩甲骨と上腕骨が構成しています。肩甲骨は受け皿のようにへこんでおり(関節窩)、上腕骨は球状に丸くなっていて(上腕骨頭)肩甲骨の受け皿にはまり込んでいます。上腕骨頭は4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)が覆っており、この筋肉が集まって腱板を構成しています。この腱板が上腕骨に力を加えることで肩を動かすことができます。また、肩関節は関節包という袋に包まれており、関節を支えています。よって、肩の痛みや動きの悪さの原因は骨、筋肉、関節包のどれか一つもしくは複数の異常により引き起こされます。
肩関節の骨
肩の筋肉 前方
肩の筋肉 後方
肩の症状
最も多いものは肩を動かしたり負担をかけた時の痛みと、動かせる範囲が狭くなる可動域制限が挙げられます。
肩の代表的な疾患
肩関節脱臼
いわゆる「肩が外れた」というものです。上腕骨頭がはまり込んでいた関節窩から外れ、元に戻らなくなった状態をいいます。脱臼の原因は強い外傷(交通事故や転倒、ラグビーなどのスポーツで強い衝撃を受けた時)が多くなっています。脱臼したときは強い痛みのために肩が動かせなくなり、病院に駆け込んでくる人もたくさんいます。治療としては医師が力を入れて元の関節の位置に戻しますが、脱臼したときに肩を支える組織が損傷して脱臼が癖になることもあり、高齢者よりも若い人に脱臼癖が残りやすくなっています。脱臼癖が残ってしまった人は肩周囲の筋力増強と脱臼しやすい体位をとらないように指導することが重要ですが、何度も脱臼し私生活に悪影響があるときは手術をすることもあります。
正常のレントゲン
脱臼のレントゲン
骨折
肩の周囲の骨折として鎖骨、上腕骨の骨折は比較的よく見られます。骨のずれ具合を確認し、手術を行うか判断します。
肩関節周囲炎
いわゆる四十肩、五十肩です。特に誘引なく肩が痛くなるものであり、特に40~50歳に多いためこのような名前がついています。肩の周りの筋肉や関節包に何らかの原因によって炎症が起こり、痛みが出ます。この痛みは1-2週で落ち着いていきますが、肩の硬さや動かしたときの痛みや違和感が残存し、私生活に影響を出します。治療は湿布や痛み止めや注射を使って痛みをコントロールしつつリハビリテーションで動きを取り戻していきますが、数か月から1年以上にわたり痛みや違和感が続くことも多くなっています。中には石灰がたまって強い痛みを出すものもあります。
腱板損傷
若い人がスポーツで起こすこともありますが、患者の多くは高齢者です。肩の筋肉は年をとるにつれて弱く、もろくなっていきます。高齢者が転倒して軽く肩をぶつけただけで肩の筋肉である腱板が切れてしまうことがあり、これを腱板損傷と言います。当初は肩関節周囲炎と同じような経過をたどりますが、症状が長続きすることが多く、また関節の動きもかなり悪くなることが多くなっています。肩関節周囲炎と同じく処方とリハビリで経過を見ていきますが、症状が強い時は手術も考慮します。
肩こり
肩や首の周りの筋肉が痛みを出したり硬くなったりするものです。特に最近はスマホのやりすぎで痛みが出ることが多くなっています。湿布や痛み止めを使いつつリハビリを行って症状を緩和させていきますが、私生活や仕事環境の改善も重要です。
野球肩
少年野球をしている子供が肩の痛みを訴えるとこのけがを疑います。子供は骨や筋肉が未熟であり、球を投げるという負担を肩にかけすぎると肩の筋肉や骨が損傷することがあります。痛みは球を投げずに安静にしていると徐々に改善していきますが、野球を再開するとまた痛くなることが多くなっています。正しい投球フォームの習得と球数制限などで肩に負担をかけすぎないことが再発防止に重要です。
画像診断
レントゲンやCTでは骨の変形や骨折・脱臼の有無を確認することができます。また、腱板損傷を疑った際にはMRIを行うことで損傷した筋肉を確認することができます。
治療
薬による治療
痛みを落ち着かせるために痛み止めの内服や湿布を使っていきます。また、症状が強い人には注射をすることもあります。
物理療法
肩を温め、電気をかけて刺激を与えることで血行を改善、治癒を促します。
リハビリテーション
肩の疾患には肩の拘縮(固さ)が起こることが多くなっています。一度固くなった肩を再び満足に動かせるようになるにはリハビリが重要になっています。
肩の症状は長続きしやすく、リハビリを含めた加療が長丁場になることが多くなっています。根気よく治療を続けていくことが重要なので、一緒に頑張っていきましょう。