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健康診断とメタボリックシンドローム

[2022.04.06]

ブログ開設にあたって、2019年9月に当時の内科増田医師が仁和会ニュースに投稿した内容を再投稿いたします。

健康診断とメタボリックシンドローム

 メタボリックシンドロームという疾患概念は、日本人には広く浸透したものになりました。このメタボリックシンドロームを早期に検出するため、メタボ健診なる特定健康診査が行われています。その理由として、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの病気は、日本人のライフスタイルの変化に伴って増加してきた病気であり、日本人の多くがその病気に罹患しているか予備軍であること、さらにこれらの病気を放置すると重篤な疾患である心筋梗塞や脳卒中に進行することが挙げられます。厚生労働省は、重病になる前の早い時期に患者を検出し生活指導や治療を開始する必要から、2008年より国の施策としてメタボ健診を実施することになった訳です。

 糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの病気は、ライフスタイルに起因するため生活習慣病と総称され、それぞれの病気が重複するとより重篤な病気に進行することが知られています。メタボリックシンドロームが進行する根底には内臓肥満という病態があり、内蔵肥満によって全身の動脈の炎症が進行して動脈硬化が悪化します。メタボ健診では、動脈硬化を起こし易い状態、すなわち内蔵肥満の状態を発見し、さらに高血糖、高血圧、脂質異常を合併しているか否かでメタボリックシンドロームを診断します。日本人に対するメタボリックシンドロームの診断基準は、内臓脂肪面積100cm2以上あることが必須条件であり、これを臍周囲径(臍回りの腹囲)で評価します。臍周囲径が、男性で85cm以上、女性で90cm以上ある人は内臓脂肪の蓄積があると判断し、これに(1)血圧130/85mmHg以上、(2)空腹時の血糖110mg/dL以上、(3)血液の中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満の3項目のうち、2項目以上を合併した場合をメタボリックシンドロームと診断します(図)。この診断基準に当てはめると、40~74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボリックシンドロームであるか、その予備軍であるという計算になります。日本では、メタボリックシンドロームと診断された人は、そうでない人と比べて心筋梗塞などを発症する危険度が男性で約2倍、女性では約3倍高くなるといわれています。

 このメタボリックシンドロームの診断基準に関しては、発表当初から多くの異論がありました。その最大の問題点は、内臓脂肪量を臍周囲径で評価することの学術的根拠が乏しいことです。世界的に見て、臍周囲径の基準値が男性よりも女性の方が大きいのは日本だけのようです。また、測定値が高血糖や高血圧を示しても、それだけで糖尿病や高血圧症の存在を予測するのは困難だからです。さらに、メタボリックシンドロームと診断されても治療は糖尿病、高血圧症、脂質異常症のそれぞれに対する治療と変わらないため、メタボリックシンドロームの概念そのものを否定的に捉えた意見も多くあります。

 しかしながら、健康診断の意義は、疾患の発症を未然に防ぎ、健康状態を維持・増進することと考えられます。メタボ健診は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの発症前の段階から患者をメタボリックシンドロームという範疇で管理し、病気の重症化を防ぎ、ひいては日本の医療費の削減を目差すためのものと思われます。この点で、メタボ健診の意義は大きいのではないでしょうか。

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